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バセドウ病眼症への手術

バセドウ病・甲状腺眼症への手術について

バセドウ病・甲状腺眼症の大きな問題点は、点滴や内服の治療を受けて安定期に入っても、風邪のように治ったら元通りではなく以前とは全く異なる見た目・容姿になってしまうことです。
特に見た目の変化が起こる頻度は女性に多く発症します。
英語ではこれをDisfiguring Proptosis(眼球突出による醜形)と呼んでいます。
多くの方々がこのような状態に対して苦しんでいますが、バセドウ病・甲状腺眼症に対する手術治療を行っている施設は全国にもほんの数か所程度しかありません。
とくに軽度の眼球突出に対する手術や未成年者に対する手術を行っている施設はその中でも僅かです。
我々はこのような方々に対して我々は専門的な知識・経験をもとに出来る限り整容的な観点を重視した手術を行っています。
他院で手術の適応がないと断られた方々でも我々の施設で手術を行う方は多くおられます。
一度ご相談頂けたらと思います。

手術治療1 眼窩減圧

副腎皮質ステロイド・放射線治療などの内科的治療で治らなかった場合には、手術治療が必要です。
眼窩減圧術は眼の周りの骨や脂肪・軟部組織を切除し、眼球突出を元に戻すための手術です。
合併症として術後に物が2つに見える(複視)ことがあります。
削る骨の位置によって複視の発生率は異なりますが、下壁は30%、内壁は15%程度に発生します。
一方で眼窩脂肪や外壁・深部外壁の減圧では3%程度と報告されています。
このため、複視の頻発する下壁・内壁を避け、外壁・深部外壁を削ることで複視の発生率を抑えています。
我々の手術方法は身体への負担を極力避けた方法です。
まぶたの裏の結膜や二重瞼のしわの中を切開するため、傷跡はほとんど残りません。
また手術回数が少なくなるよう、両眼同時手術を行っています。近隣の自治体の方であれば、当日帰宅も可能ですが、遠方の場合には術後ホテルへの宿泊をおすすめしています。
後遺症を残さないためには早期発見、早期治療が必要になります。

手術治療2  斜視手術

バセドウ病眼症では、眼球を動かす筋肉が肥大して固まってしまうため、2つの眼球が違う方向を向くことがあります。
斜視手術は眼を動かす筋肉を動かすことによって、2つの眼球の向く方向を同じにすることが出来ます。

手術治療3 眼瞼手術

上記の眼窩減圧術もしくは斜視手術のあとで選択されます。
これに対して眼瞼の延長を行います。
状態によっては上眼瞼のみならず下眼瞼にも行うことがあります。
眼球突出に伴って逆さまつ毛を発症する場合がありますので、その手術を行うこともあります。

バセドウ病・甲状腺眼症の
手術例

図1

上からバセドウ病発症前、眼窩減圧術前、術後に見た目が以前の状態に戻っているのが分かります。

図2

上からバセドウ病発症前、発症後(術前)、眼窩(脂肪)減圧術後です。
この方も、もともと美人でしたが、発症によって目つきが変化してしまっていました。
眼窩減圧手術により美しい顔つきになっていることが分かります。
具体的には上のまぶたの腫れぼったさが無くなり、二重瞼のラインが深くなっています。

図3

上からバセドウ病発症前、発症後(術前)、眼窩(脂肪)減圧術後です。
この方も、もともと美人でしたが、発症によって目つきが変化してしまっていました。
眼窩減圧手術により美しい顔つきになっていることが分かります。具体的には上のまぶたの腫れぼったさが無くなり、二重瞼のラインが深くなっています。

図4

上から眼瞼後退術前、術後。
右の眼瞼後退があり、奇異な目つきに見えています。
眼瞼後退の手術によって元の綺麗な見た目になりました。
もともと、左眼の眼瞼下垂ということで紹介されていますが、このように片方の眼瞼後退があると、他方の眼瞼が下がることがあります。
右眼の手術のみで左眼は改善しました。

図5

軽度の眼球突出やまぶたの腫れのある症例でも、手術を行うと元の顔に戻ることが出来ます。
このように軽度の場合には脂肪の切除だけで対応することが出来ます。

図6

両側の眼窩減圧術と左上眼瞼後退手術前後です。
目つきが大きく変化し、バセドウ病特有のきつい目つきから優しい目つきに変化しています。

バセドウ病ではない方々への減圧術

眼窩減圧術はバセドウ病ではない原因による眼球突出に対しても行うことが出来ます。
眼球突出により醜形をきたしていたり、兎眼やドライアイになっていたりする場合には手術適応があると考えます。

図7

眼窩減圧術はバセドウ病ではない原因による眼球突出に対しても行うことが出来ます。
眼球突出により醜形をきたしていたり、兎眼やドライアイになっていたりする場合には手術適応があると考えます。

眼窩減圧手術を受けられる 患者さん、ご家族のみなさまへ

下記は、眼窩減圧手術について説明したものです。
わからないことがありましたら、担当医にお尋ねください。
治療を受けられる場合は「同意書」に署名をお願いいたします。

あなたの病名と現在わかっていること、病態
  • 眼球突出(甲状腺眼症) 甲状腺に関連した自己免疫疾患です。
  • 甲状腺に関係した抗体が眼球の周りにある脂肪や眼球を動かす筋肉の中に存在し、それが標的となって炎症が起こり、増生します。それによりまぶたの腫れ、赤み、白眼の充血、角膜の傷、眼の奥の痛みや重さ、眼がでてきたり(眼球突出)まぶたが開いたり(眼瞼結膜の後退)し、瞬きが少なく目つきが鋭くきつくなるように見えます。筋肉、脂肪の炎症、腫れにより眼圧上昇や視力低下、2重にみえることもあります。バセドウ病の方の約50%~60%に甲状腺眼症が生じます。甲状腺機能亢進症でも低下症でも甲状腺機能が正常でもおこります。
  • 筋肉や脂肪が増生し眼球突出が起こったり、神経が圧迫されて視力低下が起こったりします。症状は発症から半年程度経過すると固定化し自然には治りません。
この治療の目的・必要性・有効性
  • 非活動期になった眼症では高度の視力低下や眼球突出をきたします。これらは放置しておいても治らないため、これに対して眼の周囲の骨(眼窩)を削り、眼の奥の脂肪を切除することで肥大した筋肉や脂肪が入るスペースを拡大する手術です。
  • この治療をすることにより眼球を陥凹させ、眼球突出により鋭くきつくなった目つきを改善し、白めの充血、角膜の傷を改善させます。
  • どの程度効果があるかは患者さんの状態により個人差があります。
この治療の内容と性格および注意事項
  • 全身麻酔で行います。
  • 下まぶたの結膜や目じりの皮膚、目頭の結膜を切開し、目の奥の骨や脂肪組織を切除します。切った結膜や皮膚は元に戻します。
  • 術後疼痛がある場合は鎮痛剤を使用します。
  • 術後1週間、軟膏を使用してもらいます。術翌日からシャワー浴・洗顔・洗髪は可能です。創部に汚れがたまると不潔になりますので、毎日軽く洗い流すようにしてください。ただしまだ癒着していませんので強くこすることはおやめください。3日後からは入浴が可能です。約1週間で創部の化粧は可能です。術後には顔貌が大きく変化する場合があります。また術後に腫れますので創部が醜く見える可能性がありますが、完全に腫れが消退し、完成した状態になるためには6か月が必要です。
  • 手術後眼帯をし、その上から冷却が必要です。
  • 当院ではチームとしての医療を行っており、厳格な基準を経た指導のもとに手術を行っていますが、通常の保険診療の場合には手術を担当する医師は指定することはできません。担当医を指名する場合には自由診療での手術になります。
この治療に伴う危険性とその発生率
  • 手術により創部が腫れ、内出血が起こります。内出血は最初赤いアザのようになっていますが、黄色く変色し重力に伴って皮下を下方に移動しながら約3週間で消退します。腫れの消退は最初の2週間で8割程度改善しますが、完全な消退には約半年かかります。創部に血腫ができた場合は除去手術が必要です。
  • 手術後には眼球運動障害が出現し2重に見えます。徐々に改善し、3から6か月で安定しますが、脂肪切除のみでは3-20%、外側壁では3-6%、内側壁では10-65%で複視が残存するとされています。その場合には、斜視手術が必要になることもあります。当院の脂肪減圧のデータでは正面複視は0%、最周辺複視は50%でした。
  • 意図的に眼球を陥凹させる手術ですので、まぶたが凹むなど、顔貌が変化します。目標を15㎜にすることが多いですが、個々の症例に個別にプランを作ります。顔貌の変化に伴って二重のラインの形状や、まぶたの腫れ方が変化します。人によってはバセドウ病発症前よりも凹んでしまったように感じる場合もあります。
  • 眼に関わる神経やこれを栄養する血管に障害が起こると失明に至るような視力障害や知覚鈍麻が出ることがあります。
  • 脳に近い場所の手術を行うため、感染症などをきたすと重篤な状態になる可能性があります。
  • 術後徐々に傷痕は目立たなくなりますが傷痕が目立ったり、ケロイドになったりすることがあります。術後に傷が離解した場合は再度縫合処置が必要です。感染などで眼窩蜂巣炎になることがあります。
偶発症発生時の対応
  • 万が一、偶発症が起きた場合には最善の処置を行います。なお、その際の医療は通常の保険診療となります。
代替可能な治療
  • これに代わる治療はありません。
治療を行った場合に予想される経過
  • 術後、さらに眼球陥凹を得たい場合に、今回の手術とほかの部位の減圧術を行うことがあります。眼瞼後退や眼瞼下垂、複視、斜視に対する手術など外科的治療が必要な場合があります。角膜びらんなどの症状がある場合は点眼の治療が必要です。
  • 一度炎症が落ち着いた眼症も人生のなかで15%で再発するとされています。その場合はステロイド治療などを必要とする場合があります。甲状腺の数値が安定している方やむしろ低下している方でも眼症は悪化することがあります。甲状腺の数値が安定しているからといって眼を放置するとひどく悪化することがあります。
  • 喫煙や放射線ヨード内用療法が悪化につながるため、禁煙が絶対必要です。またストレス、寝不足が悪化を招きます。十分な睡眠を心掛けて下さい。
何も治療を行わなかった場合に予想される経過
  • 自然には治りませんので、視力低下や結膜充血や残存します。
    顔貌の変化が気になっている場合には、うつ状態になってしまう方もいらっしゃいますし、きつい目つきに見られることで社会的不利になることなどが考えられます。
患者さんの具体的な希望
  • 治療に関して何かご要望があればお伝えください。